先月、中国人女性登山家がエベレスト登頂を果たしましたが、
ヘリコプターを使って一足飛びに第2キャンプまで移動したことが物議を醸しています。
ちなみに、彼女は女性登山家ではあるものの、
アウトドア用品会社「トゥリード」を作り、数百万ドル規模の会社まで成長させた人物です。
今回の登頂は、6カ月間に七大陸のすべての最高峰に登頂するという計画の重要なパーツで、
アウトドア用品会社のマーケティング戦略の一部であることは言わずもがなです。
こんな記事を見つけました、
ナショナルジオグラフィックから、コンラッド・アンカー:なぜ危険な山へ

5月下旬、レーニア山頂を目指していた6人の登山家が1000メートルの高さから滑落、全員死亡という惨事を受け、多くの人は危険な山へ登ることが果たして道理にかなっているのか疑問に思うだろう。
私は3度目のエベレスト登頂を果たした際、
「自己中心的な目的のために自らの命を危険に曝すのは愚か者だ」
という内容の怒りに満ちた電子メールを受け取ったことがある。
イギリスの登山家、ジョージ・マロリー氏も同じような意見を耳にした。
「エベレスト山を登ることが一体何の役に立つのか? それに対する私の答えは躊躇なく、何の役にも立たない」
と、マロリー氏は1923年に書いている。
先月、中国人登山家の王静氏が、最も危険な場所をヘリコプターで飛び越えてエベレスト登頂に成功した。
「危険を回避するための技術があるなら、どうして使わないのか?」
と、王氏の決断に賛成する人々は言うかもしれない。
その問いに、
「登山の危険性は、登山をよりパワフルで豊かな経験にしてくれる一部分である」
と私は答えたい。
だからといって、登山において科学技術が使用されないわけではない。
エベレストを踏破したいという人間の衝動は、これまで進化の旅路でもあった。
1921年、世界初のエベレスト遠征は、約640キロ離れたダージリンからの徒歩で始まった。
1953年の遠征隊はカトマンズ渓谷まで飛行、渓谷の縁から徒歩を始める。
1963年までに道路がいくぶん延長されたものの、依然として3週間の過酷な登山が強いられた。
1970年代中頃以降、ルクラ空港の開港に伴い、登山者たちはクーンプ流域からエベレストへのアプローチを試みるようになった。
最高峰を踏破する秘訣は、新しい世代の登山者が導入する新技術と共に継続的に少しずつ変化している。
しかし変わらないものもある。
「登頂とは単に山頂に辿り着くこと以上の意味を持つ」という価値観だ。
5月23日、王氏はネパール側のサウスコル・ルートを経由して5人のシェルパと共に頂上へ到達した。
一般的な登頂ルートは、4月18日に13人のシェルパと3人のネパール山岳ガイドの命を奪ったクーンブ・アイスフォールを通り抜け、サウスコルに至る。
王氏はヘリコプターでクーンブ・アイスフォールの上をわずか数分の内に飛び超え、行程の約3分の2にあたる、およそ5900メートルの地点にあるキャンプ2から登山を開始した。
ヘリコプターがエベレストにとって新しいわけではない。
レスキューや物資の補給、遊覧飛行や科学的調査のため、これまで数十年間活躍してきた。
一方、その反対側にあるチベットでは、中国政府がヘリコプターの使用を禁止している。
北米最高峰のデナリ山(マッキンリー山)では、すべての登山者がカヒルトナのサウスイーストフォークから登山を始めるよう義務付けられており、ヘリコプターは救助の目的にだけ利用される。
怪我または病気になった登山者を救助するためヘリコプターを利用するのは明らかに正当な目的である。
だが、甘い考えに基づく技術の使用は、エベレストに登るそもそもの理由に反する。
いくつかの報告によると、中国に本社があるアウトドア用品会社を営む王氏は、6か月間に7つの最高峰を踏破するという目標の一環として、エベレスト登山にプレッシャーを感じていたようだ。
もし今季中にエベレスト登頂を果たせなかったら、彼女個人の努力が無になるだけでなく、会社にとっても大きなマーケティングの機会を失ったはずだ。
ザ・ノース・フェイスの専属クライマーである私は、スポンサーを代表して登山を成功させたいと願う気持ちは理解できる。
しかし、登山に近道はない。
アイスフォールは危険であると共に、エベレストという経験において本質的な一部分を為す。
登山経験に関係なく、悪いタイミングで間違った場所にいれば命を落とす。
それは非常に危険だが、同時に言葉に表せないほど美しい体験となる。
それでもまだ納得いかない人々のために、1924年、エベレスト登山中に命を落としたマロリー氏が答えてくれる。
「この山の挑戦に応じて挑む人の中に何かが潜んでいること、また困難とは永遠に上へ上へと登り続けようとする人生の困難そのものであることが理解できない人々には、なぜわれわれが登るのか分からないだろう。
この冒険から得るものは、真の喜びである。
喜びとは、つまり、人生の目的である」。
ヘリ移動を批難することは簡単です。
(ただ、貧乏人のひがみにならないように、注意深く言葉を選びましょう)
一方で、我々も結構な部分をクルマで端折ってたりしませんか。
標高1000m近い登山口にマイカーを乗り付けて、
昔の人が2日掛かりの行程を日帰りで済ませたりしていませんか。
ヘリだから?
クルマだし?
まぁ、でも、ヘリはやり過ぎかな。
ピークハンターや三角点マニアなら、全然構わないけど、こと、登山となると、
端折った部分がやっぱり、もったいないと思うわけで。
上の記事では、登山に近道はない、と云ってますが、
僕は、近道はある、けれど
登山で近道をすれば、結局はつまらないのでは?と。
裏技を使ってクリアしたゲームより、
徹夜して解いたゲームは大人になっても忘れない、みたいな。
面倒なこと、しんどいことは、記憶に強く残りやすいし、
一晩語り明かせるくらいの濃い旅なればこそ、人生も豊かなものになる。
王氏の話に戻りますが、ちなみに、
ヘリで第2キャンプにコックやシェルパまで運びこんで達成した今回の登頂ですが、
エベレスト登頂を認定する文化観光民間航空省が正式に認めるかは不明だそうです。
また、王氏は、ナムチェバザールの病院に3万ドル以上寄付したりしています。
それと、上記記事では標高4400メートルのレーニア山で起きた事故にも触れていますが、
場所は、レーニア山の北側リバティリッジ、究極の尾根として知られるポイントで、
景観が素晴らしく美しくのだけれど、技術的に難易度が高いそう。
レーニア山全体の死亡事故の約4分の1、26人が命を落としている危険な場所だそうです。
この尾根の登攀も扱っているツアー会社によると、
「22キロ以上の荷物を背負って1日7~8時間、傾斜50度もの急斜面もある、過酷な5日間の旅」
で、
「当社主催のレーニア山リバティリッジ登山は、
アメリカ本土48州の中でも最も技術と肉体的鍛錬を要するコースの一つです。
人生で最も体力のある時期に挑戦してください」
「人生で最も体力のある時期に挑戦してください」かぁ。
僕はもうムリだなぁ (^^;)
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